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死なない工夫

Mar 31, 2013

CATEGORY : 雑記

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今日、とある作家さんが自殺したというニュースをネットで知り、

「なんでやねん」

という気持ちと、

「ああ」

という気持ちが半々だった。

華々しいデビューを飾ったものの、ここ数年は活動していなかったらしい。

「スランプ」という言葉はいっぺん上がった人のためにある言葉なので、

上がったことのない私にはその心中はわからない。

そういえば自殺した私の師匠もベストセラーを出していた。

当時デビュー前だった私からみれば、

前ほど売れてないっていっても連載だってあるし書き下ろし長編だって書いてるのに、

なにをくよくよ悩むのか、

と師匠からの泣きの電話を受けながら思っていたけど、

いまならものすごくよくわかる、

気持ちがうしろ向きのときというのは視野が一ミリくらいになるのだ。

私は会社勤めをしなくなってもう10年以上になるので、

人間関係のストレスとかからはかなり解放されている。

でもそのかわり、世の中というのはじつにうまくできているもので、

そういう苦労のない人間には「ほっとくと孤独」という試練がまっている。

嫌な人と毎日顔を突き合わせなくていい、というのは確かに幸せなことだけど、

気がつくとこの一週間、家族以外の誰とも口をきいていない、なんてこともある。

そういう生活が長く続くと、人の視野はだんだんと一ミリに近くなってくる。

そして、視野が一ミリしかないときに周りに誰もいないというのはたいへん危険で、

だから自由業というのは追いつめられないための工夫があれこれと必要になる。

作家業を始めて今年で八年、つくづく大事だと思ったのは、

「滞らないためには常になにかのアクションを起こし続けること」だった。

それは誰かとの交流だったり、

新しいことへの挑戦だったり、

知らない場所へ出て行くことだったり、

とにかく、常になにかをしていれば、視野一ミリという事態は避けられる。

むやみやたらと周りを気にしながら右往左往するのではなく、

自分の心の声を聞き、どっちに行きたいか、なにをしたいかに耳を傾け、

決してその声を無視することなく、自分のペースでひたすら進む。

いつか西原理恵子先生がなにかのコラムで書いていらしたことだけど、

年間三万人の自殺者が10年以上も出続けている今のこの国はやっぱり異常だ。

どんな紛争地域でも年間三万人なんて事態はあり得ない、

まさに、今のこの国は先生の言う通り、かたちを変えた戦場なのだと思う。

でもその比喩を聞いたとき、基本悔しがりの私は逆に「コノヤロウ」という気持ちになった。

なぜなら、なにか得体の知れない不安や孤独や無力感に押し潰されているというよりは、

悪意のある何かで作られたゴーレム人形みたいなものと戦っていると考えた方が、そうか、そんじゃいっちょそいつを投げ飛ばしてやろう、という気持ちになれるから。

ちなみにゴーレム人形の正体はおそらくただの「思い込み」で、本当ならたいていのことは別に気にする必要はなく、

ましてや、命をとられるほどの重大事ではないのだと思う。

それに命を吹き込み、殺傷力のあるものにしてしまっているのは他ならぬ自分自身。

「自分はこの人生でなにかをなしとげなければいけない」とか、

「99%の敗者ではなく1%の勝者にならなければいけない」とか、

そういうノウハウが書かれた啓発本、ここ10年で本当に本屋で目につくようになったけど、

それはあくまで生き方のひとつに過ぎず、人生の楽しみ方なんて人それぞれなんであって、

そのことがわかっていれば視野一ミリにはならないのだと思う。

英語なんかできなくったっていいじゃないの、

年収いくら以上とかじゃなくったっていいじゃないの、

もちろん、頑張りたければ頑張ればいいが、

それは自分が「頑張りたい」からやるので、

孤独は嫌だというときも「ひとりはいや、寂しい」じゃなく「どんな人と交流したいか」と考えたほうがきっといい。

どんな人と一緒にいたくて、

毎日どんなことがしたくて、

どんな場所に行きたくて、

なにが自分を幸せにするのか、

そういうことを指針に動くと、

自然とどこからか涼しい風が吹いてくるような気がする。

相変わらず日々悩みはてんこもりの私だけど、最近はくじけそうになるたびに上のように考えていて、

だけどたぶん悩むのが趣味なので、こうは言いながらもこの先一生、ああだこうだとくよくよ悩みながら生きていく気がします。

でもいいの。 今日も猫ズがかわいいし、自分でつくった餃子もおいしかったから。

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