少し前から、日本の離島が少しずつ外国資本によって買われているという噂は耳にしていたが、まさか我が加計呂麻島にまでその手が伸びてきているとは思わなかった。
今の日本には外国人が土地を買うのに規制がない。だから、万一何かがあっても国にそれを止める力はない。
考えてみればスゴイ話である。 世界中、いまどきどこをみてもそんな悠長な法律が許されているのは日本だけだ。
そこで数年前から外国資本が入っているという噂のあるチップ工場が少しずつ土地を買い取り、奄美のあちこちの森林が伐採で削られ始めた。
奄美に集中豪雨が発生し、死傷者が出たのはそのすぐ後だ。
特に被害がひどかったのは、やはり伐採が行われた地域だという。
それまで激しい雨から山を守ってくれていた森がなくなったんだから当然だ。
当然、そのことを島の人から聞かされた私は驚いた。
冗談じゃない、大事な大事な避難所を奪われてたまるものか。
しかし、同時にこうも思った。
ついに、私達がこういうことで脅かされる時代が来たのか、と。
奄美に来てすぐの頃、ガイドの人からこんな説明をうけたことがある。
「この山も、昔は木が伐採されていた時期があったんですよ。 でも、そのうち東南アジアのほうからもっと安い木材が手に入るようになりましてね、それで今のような景観を保存することができたんです」
その話を聞いた時、私がまっさきに思い出したのは昔観たNHKドラマ『炎熱商人』(1984年)のことだった。
深田祐介の直木賞受賞作がドラマ化されたもので、昭和46年にフィリピンで実際に起きた邦人殺害事件を題材にしている。
日本が高度経済成長時代に周りの国にしたことを思えば、今私達が同じような目に遭いつつあるのも文句が言えないことなのかも知れない。
かつて奄美の森が守られた代わりに、フィリピンのどこかの森が犠牲になった。
歴史をたどってみる限り、そのお鉢が今再びこちらにまわってきているわけである。
だけど、それでも私は自分の縁側がなくなることは耐えられなかった。
私の故郷、柴又に似たあの空気には、なにものにも代えがたい貴重でありがたい何かがある。
それを壊すのはやめてください、と言うくらいは自由じゃないのか、と思った。
しかし、一介のしがない物書きの身、なにができるわけでもなく、できることといえばただひとり島を往復することだけだった。
私はあの島が大好きです、と、ことあるごとに人に言ってまわるだけだった。
だけどそんなある日、私のもとに一本のメールが入った。
続きます。